心電図検定1級合格のためにしたこと
ご無沙汰しております。卒試や国試、勉強会でてんてこまいになってしまいブログの更新が滞ってしまいました。申し訳ございません。この期間に様々な方とオンラインで出会い、自分の知見の無さを痛感する毎日でしたが、身の丈を把握しつつ学びの瞬間最大風速も大事にしていきたいと思いますので何卒よろしくお願い致します。
さて、去る2022年1月に心電図検定1級を受験して参りました。今回は国試後の気分転換として今までとは違う内容のブログを更新していけたらなと思います。(肝心の国試は自己採点上は大丈夫なはずです。笑)
今回のブログが少しでも、国試前に受けたかったり、1人でこっそりと心電図検定受けたかったりする方に届けば幸いです!
はじめに
心電図検定とは
まず、心電図検定って何?となる方が多いと思います(僕もあまり理解しておりません笑)ので以下引用で載っけておきます。
医療従事者にとって、心電図判読の重要性はいうまでもありません。これまでに、心電図の魅力に取り憑かれた多くの研究者が、心電図学の発展に努めてきました。
ただ心電図は、決して特別な専門家のためだけに存在するものではありません。心電図に興味をもち、判読に自信をもっている人は決して少なくはないでしょう。学生や看護師、臨床検査技師で、医師のレベルを超える判読能力を持つ人もいる。循環器専門医の中にも、その隠れた才能を他のスタッフに知られていない人がいるはずです。
教授よりも学生の私の方が心電図を読めるぞ! もっと心電図を好きになりたい! 興味を持ちたい! そうした方々にとって、よりいっそう心電図を学ぶ機会と喜びを分かち合う場はないだろうか? 日本不整脈心電学会はそうした声を受けて、心電図検定を立ち上げることにいたしました。
ということで、日本不整脈心電図学会が医療者の心電図判読の普及やレベルアップを目的とした検定らしいです。
1級以外はわからないのですが、とりあえず90分で50問の心電図についての問題を解答する(多選択肢問題あり)という形式です。
2021年度の会場は東京・京都・広島・福岡の4会場でしたが、2022年度第8回の心電図検定の会場は東京・名古屋・大阪・福岡の4会場で日時は2023年1月14・15日だそうです。
受験のきっかけ
研修医になってからの医学的なネックの1つに心電図がありました。興味はあったのですがイマイチ何の本読んだらいいかわからないしそもそもどこまで読めればいいというゴールがわからないという状態でした。
そんな中、僕の他大学の同期が5年生時に心電図検定1級を受けて見事合格しておりまして、使った教材やどこまで勉強すればいいかを教えてくれました。本当にありがとうございます(泣)。
受験料(1万円)もかかって申し込んでしまえば背水の陣で勉強すると思った上に、5日間しか勉強しなかったと聞いてお手軽だと思い申込みの予定(申し込みは10月頃でした)をカレンダーに入力しました。
受験前の心電図の理解度
心電図検定は2022年1月にあったのですが2021年12月の時点では「Ⅱ,Ⅲ,aVFは下壁梗塞で左回旋枝の可能性などは考えず右冠動脈しか考えない」という6年生なら誰でもたどり着くようなレベルの理解度でした(逆に平均切っているレベル?)。恥ずかしながら左脚ブロックの形も人に説明できなかったように感じます...笑(よく受験したなぁ笑)
正直勉強時間さえ確保できれば5年生以下の方でも合格可能と思います。
(追記:そういった方は散見されました笑 僕も見習って勉強していきます!)
心電図の勉強に関して
使った教材
心電図マイスターチャンネル
恐らくこの記事を読んでくださっている方は「最初に紹介する教材がYoutubeかよ!」ってツッコまれる方と「やっぱりこのチャンネルだよね」と同意してくださる方に大きく二分すると思います。笑 このチャンネルはエグすぎます。この動画を見なかったら100%落ちている、そう言い切ることができる程の教材です。恥ずかしながら僕は2021年12月中旬頃、同期にこのチャンネルの存在を教えてもらいました。本当にありがとう(泣)。このチャンネル主の新井先生は循環器の専門医の先生で、2020年度の心電図検定でマイスターを取っているお方です。ちなみにマイスターというのは1級で50点満点近くor満点を取らないと獲得できない代物だと思います。すみません、新井先生を高めのテンションで紹介してしまいましたが、このYoutubeチャンネルには各論的な動画とドリル的な動画とがあります。1級受けるなら全て必見と考えます。
この動画をご覧いただくと心電図マイスターまたは1級がどの程度のものか輪郭をある程度掴むことができる上におすすめの参考書まで教えていただけるので必見です。
この動画みれば勉強法とか僕が書かなくてもというご意見もあるかとは思うのですが、あくまで心電図の知識がそこまでない一介の学生がどのような参考書をどのように使ったかを書いて参りたいと思います。
心電図パーフェクトマニュアル
この本も必読と考えます。とりあえずこの本において覚えたほうが良いと感じたことは
・Chapter1(正常心電図)全部
・各心電図のここがポイント!全部
です。Ankiを使えば楽にできます(画像も入れたいのでPDFで持つことをオススメします)。この本で基盤ができると思います。また簡略化して書いてくださっている部分もあるのである程度学習すすんでから戻って来ると頭に入りやすくなっていることも多々あります。
ER心電図の超速診断ー救急現場で初心者から役立つ
この本も新井先生が紹介なさっているのですが、ものすごいです。各論の構成が説明+10枚前後の心電図となっておりまして、インプットとアウトプットの両方をこなせます。この本を読むことで先のYoutubeチャンネルの理解も深まると思います。横長の本で心電図が実物大で載っているので本で持つことをオススメします(僕は図書館で借りて済ませました)。本番までに2周はしたいところです。
心電図検定公式問題集&ガイド
これも必須です(図書館で借りて済ませました)。前日の段階では自信を持って95%以上正答できるようにしておいた方がいいかと思います。
反省としてはおそらく実力心電図もやっておいた方がいいかなと受験前日に思いました...(実力心電図が出題基準範囲になっているらしいので)
有名な心電図ハンターの虚血編と不整脈編は気分転換に読みましたが心電図検定においてマストなのはリンクを貼った参考書かと考えます。
判読ER心電図の基本編と応用編も有名だと思うのですが僕は手を付けることが出来ませんでした。この本の内容も見てみたいと思います。
あと僕は入っていなかったのですが、dicordで心電図の勉強団体もあるらしいので絶対受かりたい方は周りと同じことをするという意味合いでも専門の方々の情報が得られるという意味合いでも入れさせて頂ければ有益な情報が得られるかと思います。
勉強法
本格的な勉強はクリスマス・イブくらいから始めました。
2週間前~1週間前にしたこと
・心電図マイスターチャンネルの内容(ドリル以外)ほぼ全てをAnkiに
・心電図パーフェクトマニュアルのChapter1をAnkiに
そして何よりこの1級対策ドリルを見て心を一回折る(笑)ことで全ての動画を見ようと思えるはずです。笑(1~2級レベルよりさすがに難しい)初見だと仰っている内容がわからなさすぎて1万円をドブに捨てたと絶望しました。
1週間前~3日前(以下、Ankiは回し続けている前提です)
・心電図マイスターチャンネルのドリルを全てやる(1周目) 目標正答率:70~80%
・ER心電図の超速診断を全てやる(1周目)
・心電図検定公式問題集(1周目) 目標正答率:80%
この1週間前くらいの期間はメンタル的に国試勉強があまり出来なかったです。毎日心電図100枚は読みながらAnkiを回しておりました。基本的に心電図マイスターの1~2級レベルのドリルで80%が獲得できれば受かるという前情報の下取り組んでおりました。体感としてはその通りかなと思いました。
2日前~当日の午前
1級は午後からな上、前泊したので当日かなり勉強できました。
・心電図マイスターチャンネルのドリルを全てやる(2周目) 目標正答率:100%
・ER心電図の超速診断の自信のない所をやる(2周目)
・心電図検定公式問題集(2周目) 目標正答率:100%
以上の通りこなすことができれば、試験後の合格の手応えはあるかと思います。しかし、マイスターは無理だな(笑)と悟りました。マイスターへの道は遠いなと改めて...笑
終わりに
雑多なアドバイス
・実力心電図はやらないと不安感強いです。笑
・申込みが割と難関らしいです。僕は東京で受けていないので大丈夫でしたが人気会場で受ける方は申込みの日は要注意です。
・時計は会場にない決まりっぽいので持っていきましょう。
・コロナ対策で水分を会場内で取れないのがきつかったです。
・前日SNSは見ない方がいいです。2級の難易度が上がったというのを見てしまい、本当に前日夜は自信を失くしておりました...
・5年生以下の時に受ければよかったです。笑 実習で使えるし、何より循環器の理解が深まります。そして6年生の1月だと周りは国試勉強一色なので自身のアウトローな感じにすごく焦りますが、6年生でも別に大丈夫だと思います!僕は帰ってきて速攻国試模試をやりました。笑
感想
ここまで、長ったらしい文章にお付き合いくださりありがとうございました。
ただ、これはあくまで2021年度の問題の話ですので、これから益々盛り上がってくるであろうこれからの心電図検定のお役に立てるかどうかをわかりませんが、年々問題の難易度は上がり(少し上がっているように感じましたが本番バイアスもあるかと思います)、相対評価ではあるものの、こういう試験系は合格できる得点率(約80%)はそこまで変わらないのが世の常だと思いますので、受かりたい方は是非80%以上の得点率を目指して頂ければいいのかなと思います。
何か記載漏れがあれば追記も随時していきたいと思います。
苦手な心電図と触れ合うことで得意(僕は受かったものの、まだまだなので頑張ります...)になれるor好きになれるきっかけを作ってくれる心電図検定、かなりオススメです!笑
この機会に学んだことを臨床で活かせるように精進して参ります....!
肝硬変のmimic○○とは?
ぼちぼち卒業試験も始まりそうですが、先日超優秀な同期がプレゼンしてくれた症例(忙しい中ありがとう😭)について気になったので深堀り(?)してみました。
今日のテーマは腹水の鑑別の1つとなる肝硬変のmimic○○についてです。
腹水
腹水の原因の鑑別
まずはさらっと腹水の原因の鑑別について書いていきます。
腹水の原因といえば肝臓系のイメージが強いですがどうなのでしょうか。
Up To Dateで調べてみると
肝硬変 81%
悪性腫瘍 10%
心不全 3%
結核 2%
透析 1%
膵疾患 1%
その他 2%Up To Date "Evaluation of adults with ascites"の"ETIOLOGY "
肝硬変が頻度としては圧倒的でその後悪性腫瘍、心不全、結核、透析、膵臓疾患、その他と続きます。
その他の稀な原因としては
感染症
アメーバ症、回虫症、ブルセラ症、クラミジア腹膜炎、HIV感染症、骨盤内炎症性疾患、偽膜性腸炎、サルモネラ、Whipple病
血液疾患
アミロイドーシス、Castleman症候群、髄外造血、血球貪食症候群、Langerhans細胞組織球症、白血病、悪性リンパ腫、肥満細胞症、多発性骨髄腫
その他
妊娠、Crohn病、子宮内膜症、Gaucher病、リンパ脈管筋腫症、粘液水腫、ネフローゼ症候群、手術によるリンパ管の裂傷または尿道損傷、卵巣過剰刺激症候群、POEMS症候群、SLE、脳室腹腔シャント
Up To Date "Evaluation of adults with ascites"の"ETIOLOGY "
というように、かなりの鑑別が挙げられます。
腹水の鑑別のアルゴリズム
鑑別のアルゴリズムは以下になります。
Up To Date "Evaluation of adults with ascites"の"DETERMINING THE CAUSE OF THE ASCITES "の"General approach"
正直この腹水の鑑別のアルゴリズムについては様々な本で書かれているので詳細は省きますが、以下ポイントかなと思った点です。
血清-腹水アルブミン勾配(以下SAAG)は1.1g/dL以上だと97%の精度で門脈圧亢進症と診断できるそうです。
Runyon BA, Montano AA, et al. Ann Intern Med. 1992 Aug 1;117(3):215-20. doi: 10.7326/0003-4819-117-3-215. PMID: 1616215.
下のJAMAの論文ではSAAGと門脈圧亢進症に関して、
SAAG:
<1.1 g/dL⇒LR(-) 0.06[0.02-0.20]
とかなり低い陰性尤度比が示されています。
また、特発性細菌性腹膜炎(以下SBP)を示唆する所見についても調べられていて、
腹水中の好中球数:
>250/μ⇒LR(+) 6.4[4.6-8.8]
≦250/μ⇒LR(-) 0.2[0.11-0.37]
腹水中の白血球数:
>1000/μL⇒LR(+) 9.1[5.5-15.1]
腹水pH:
<7.35⇒LR(+) 9.0[2.0-40.6]
(血液pH)-(腹水pH):
≧0.10⇒LR(+) 11.3[4.3-29.9]
<0.10⇒LR(-) 0.12[0.02-0.77]
とのことでした。
血液と腹水のpHの差をとる指標自体を初めて知りました。
Wong CL, Holroyd-Leduc J, et al. JAMA. 2008 Mar 12;299(10):1166-78. doi: 10.1001/jama.299.10.1166. PMID: 18334692.
以上のことを知っているととりあえず結核や悪性腫瘍以外の鑑別はできると思います。
year noteにも太字ではないですが漏出性と滲出性の腹水の鑑別の際のSAAGについては触れられていますね。
ここまでで既に僕の拙い文章だとお腹いっぱいかと思われます(💦)が、今回の本題はここからでして、腹水をきたす肝硬変のmimicに○○があるということをお伝えしたい記事なのです…笑
肝硬変のmimic○○
症例
突然ですが、症例です。
30歳でやせ型の1日にビールを2Lは飲む大酒家の男性です。腹部膨満感で内科外来にやってきました。頸静脈波は確認できず、心雑音もなく、四肢の浮腫もありません。血液検査上、肝逸脱酵素の上昇やビリルビン上昇も認めません。心エコーは正常(弁膜症も明らかなものはない)で、CTをみるとたしかに腹水はかなり貯留しており、脾腫もあります。肝疾患をきたす感染症は検査上は否定されておりまして、生検までされていますが特に肝硬変は来していないという所見でした。この症例の診断は何でしょう...
実はこの方、
収縮性心膜炎
でした...
腹水の鑑別に右心不全きたすような収縮性心膜炎は挙げられるとは思うのですが、症状として四肢の浮腫なしで腹水だけの収縮性心膜炎があり得るということを知らなかったので、調べてみました。
病態生理
皆さんご存じの収縮性心膜炎の病態生理について軽く書いてみると、
硬く瘢痕化した心膜が心臓を覆っている
⇒心室充満が抑制されている
=すぐに拡張限界がくる
⇒右心への静脈還流が止まる
⇒体静水圧が上昇し、右心不全症状が現れるそのうえ左室充満も抑制されるので、1回拍出量、心拍出量、血圧が低下することになる。
ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理 第4版
右心不全症状を呈するということなので腹水が出るのは頷けますね。
症候
135人の収縮性心膜炎患者のうち、67%は心不全症状、8%は胸痛、6%は腹部症状、4%は上室性不整脈、5%が心タンポナーデのような症状(呼吸困難、倦怠感、運動耐容能の低下)を示したとされています。
Ling LH, Oh JK, et al. Circulation. 1999 Sep 28;100(13):1380-6. doi: 10.1161/01.cir.100.13.1380. PMID: 10500037.
なるほど、腹部膨満感のような腹部症状を訴える患者は6%程度にみられるのですね...
症例報告
成長遅滞、呼吸困難、長期経過の腹水が存在した23歳男性
Long-evolution ascites in a patient with constrictive pericarditis
唯一の症状として4年も持続した難治性の腹水が存在した若年女性
Refractory ascites as the only presenting symptom of chronic calcified constrictive pericarditis: a diagnostic challenge
大量の腹水と肝脾腫を伴う腹部膨満を呈した13歳男性
Constrictive pericarditis presenting as massive ascites in children: report of one case
といったように、末梢性浮腫をきたさずに腹水を呈した症例はいくつか見つかりました。また末梢性浮腫は来しているものの、肝硬変と診断されて治療が遅れた収縮性心膜炎の患者さんの報告も何件か確認できました。
類似疾患ではどうか
収縮性心膜炎と似たような循環動態を呈する心タンポナーデではどうでしょう(厳密にいうと違うとは思いますが、どちらも心室拡張期充満の障害は来すということでそれはとりあえず置いておきます)。心タンポナーデと腹水や肝硬変の関係を調べても診断エラーが起きたような症例や治療が遅れたような症例はヒットしません(僕の論文検索能力の欠如の可能性高いですが、少なくとも収縮性心膜炎よりはヒットしないです)し、Up To Dateを読んでも亜急性心タンポナーデの部分で少し右心不全症状の1つとして挙げられているくらいです。
収縮性心膜炎というのは心膜液が器質化して心膜2層が癒合して線維性の瘢痕を形成するという病態で成り立っているため、症状と徴候が出現するまで通常数か月~数年かかります。おそらく、そうした長期経過の中で腹水という症状を最初に見ているのかなと思いました(なのでどちらかというと急性の経過を辿る心タンポナーデでは腹水のみという症状はみられにくい?)。
また、身体所見も見逃している可能性が高いので、腹水の患者さん相手には注意深く、頸静脈、四肢の診察をするべきだと思いました。
まとめ
腹水による腹部症状がメインの患者さんでは、肝硬変を中心とした鑑別を挙げますが、収縮性心膜炎も一考することにします。
本日もお読み下さり、ありがとうございました。
Wilson病の診断について
先日、学内の臨床推論勉強会で後輩がWilson病の症例を提示してくれました。かなり多彩な症候でマスクされていた上、Wilson病における肝逸脱酵素の上昇の理解が不十分で診断にたどり着くことが中々困難なケースでした。後輩が作ってくれた資料に「ALP(IU/L)/総ビリルビン(mg/dL)の比率が4.0より低く、AST(IU/L)/ALT(IU/L)の比率が2.2以上だと感度・特異度がほぼ100%でWilson病を診断できる」との記載があり、これが本当なら血清セルロプラスミンや尿中銅を測定する前にWilson病を強く疑うことができるなと思い調べてみました。
Wilson病の診断
Leipzig criteia
Wison病診断のための参照基準として、Leipzig criteriaというものがあり、
●Kayser-Fleischer角膜輪 (2点)
●Wilson病を示唆する神経精神症状 (2点)
●高血清銅を伴うCoombs陰性溶血性貧血 (1点)
●急性肝炎がない場合の尿中銅
•基準範囲上限の1〜2倍 (1点)
•基準範囲上限の2倍以上 (2点)
•基準範囲内だが、0.5 gのD-ペニシラミンを2回投与した後の基準範囲上限の5倍以上 (2点)
●肝臓組織中の銅の定量測定
•基準範囲 (-1点)
•基準範囲上限の5倍以下 (1点)
•基準範囲上限の5倍< (2点)
•ロダニン陽性肝細胞(銅の定量測定で値が得られない場合(1点)
●血清セルロプラスミン(基準値>20 mg/dL、比濁分析の使用に基づく)
•基準範囲内 (0点)
•10 to 20 mg/dL (1点)
•<10 mg/dL (2点)
●変異解析
•両方の染色体に突然変異を起こす疾患 (4点)
•片方の染色体に突然変異を来している (1点)
•突然変異を来していない (0点)
というものがあり、
4点以上ならかなりWilson病らしい
2-3点ならWilson病の可能性を考慮する
0-1点ならWilson病の可能性は低い
ということが言われています。
(感度、特異度等の記載がなぜか見つけられませんでした...)
Wilsons Disease Scoring System (leipzig Score) | Medical Calculator
↑ネット上で簡単にスコアをつけられるサイトまでありました。
Wilson病を疑った際に施行する血清セルロプラスミン測定、尿中銅測定、眼の細隙灯検査(+生検や遺伝検査のような確定診断のための検査の結果という並び)がスコアリングに絡んでいることがわかります。
「肝臓組織中の銅の定量測定、ロダニン陽性肝細胞の同定、染色体変異の検出」は発展途上国のすべてのセンターで行うことができるとは言えないので、それらを除外した、「Kayser-Fleischer角膜輪、高血清銅を伴うCoombs陰性溶血性貧血、急性肝炎がない場合の尿中銅、血清セルロプラスミン」の項目を採用した診断スコアの価値をテストした論文がありました。規模はそこまで大きくなく、小児のみが対象ですが、感度100%、特異度98.6%の結果が出ていたのでWilson病を疑った際にはこれらの検査だけを行うことも考慮されるかもしれません。
Sajedianfard S, Ataollahi M, Dehghani SM. Diagnostic Value of a Modified Version of Wilson's Diagnostic Score in Pediatrics. Int J Organ Transplant Med. 2020;11(2):65-70. PMID: 32832041; PMCID: PMC7430058.
簡便な生化学検査でWilson病は診断できるのか
少なくとも診断の参照となるような基準の項目にセルロプラスミン以外の血液検査でわかるような項目はありませんでしたが、「ALP(IU/L)/総ビリルビン(mg/dL)の比率が4.0より低く、AST(IU/L)/ALT(IU/L)の比率が2.2以上だと感度・特異度がほぼ100%でWilson病を診断できる」とは本当なのでしょうか。
引用論文は以下のものになります。
Korman JD, Volenberg I, et al. Pediatric and Adult Acute Liver Failure Study Groups. Screening for Wilson disease in acute liver failure: a comparison of currently available diagnostic tests. Hepatology. 2008 Oct;48(4):1167-74. doi: 10.1002/hep.22446. PMID: 18798336; PMCID: PMC4881751.
読んでみると、Wilson病による急性肝不全をきたした場合についての論文でした。(笑)
オキシダーゼ法と比濁法の2つの方法で血清セルロプラスミン<20 mg/dLをカットオフ値としたところ、オキシダーゼ法では感度21%、特異度84%、比濁法では感度56%、特異度63%とあまりいい陽性尤度比ではない一方で、ALP(IU/L)/総ビリルビン(mg/dL)の比率が4.0より低いと感度94%、特異度96%、AST(IU/L)/ALT(IU/L)の比率が2.2より大きいと感度94%、特異度86%とのことで、その2つを組み合わせると感度・特異度がほぼ100%で劇症Wilson病を診断できるとのことでした。
なるほど、高率に肝障害をきたすWilson病とはいえ、劇症じゃなければセルロプラスミンとかを測るしかないのでしょうか..?
調べると似たような論文は2019年にも出ていまして、
AST、ALT、ALP、AST/ALT比、尿酸、Hb、6項目それぞれにカットオフ値を設定し、満たすと各1点という基準で6項目合計が2.5点を超えると感度87.5%、特異度86.7%で劇症Wilson病と診断することができるという論文でした。
Güngör Ş, Selimoğlu MA, Bağ HGG, Varol FI. Is it possible to diagnose fulminant Wilson's disease with simple laboratory tests? Liver Int. 2020 Jan;40(1):155-162. doi: 10.1111/liv.14263. Epub 2019 Oct 11. PMID: 31568639.
まとめると、急性肝不全をきたすような劇症型のWilson病の迅速な診断としてAST、ALT、ALP、AST/ALT比、尿酸、Hb、T-Bilといった項目は使える可能性があるということがわかりました。
論点がボケてしまうので書きませんでしたが、診断する上でのフローチャートや肝機能の評価(線維症のスコアや超音波エラストグラフィー)など、色々とWilson病の奥深さを思い知るいい機会でした。