静山の勉強部屋

東海↔北陸の医学生の勉強記録です

Wilson病の診断について

先日、学内の臨床推論勉強会で後輩がWilson病の症例を提示してくれました。かなり多彩な症候でマスクされていた上、Wilson病における肝逸脱酵素の上昇の理解が不十分で診断にたどり着くことが中々困難なケースでした。後輩が作ってくれた資料にALP(IU/L)/総ビリルビン(mg/dL)の比率が4.0より低く、AST(IU/L)/ALT(IU/L)の比率が2.2以上だと感度・特異度がほぼ100%でWilson病を診断できるとの記載があり、これが本当なら血清セルロプラスミンや尿中銅を測定する前にWilson病を強く疑うことができるなと思い調べてみました。

 

Wilson病の診断

Leipzig criteia

Wison病診断のための参照基準として、Leipzig criteriaというものがあり、

Kayser-Fleischer角膜輪 (2点)

Wilson病を示唆する神経精神症状 (2点)

高血清銅を伴うCoombs陰性溶血性貧血 (1点)

急性肝炎がない場合の尿中銅

基準範囲上限の1〜2倍 (1点)

基準範囲上限の2倍以上 (2点)

基準範囲内だが、0.5 gのD-ペニシラミンを2回投与した後の基準範囲上限の5倍以上 (2点)

肝臓組織中の銅の定量測定

基準範囲 (-1点)

基準範囲上限の5倍以下 (1点)

基準範囲上限の5倍< (2点)

ロダニン陽性肝細胞(銅の定量測定で値が得られない場合(1点)

血清セルロプラスミン(基準値>20 mg/dL、比濁分析の使用に基づく)

基準範囲内 (0点)

10 to 20 mg/dL (1点)

<10 mg/dL (2点)

変異解析

両方の染色体に突然変異を起こす疾患 (4点)

片方の染色体に突然変異を来している (1点)

突然変異を来していない (0点)

というものがあり、

4点以上ならかなりWilson病らしい

2-3点ならWilson病の可能性を考慮する

0-1点ならWilson病の可能性は低い

ということが言われています。
(感度、特異度等の記載がなぜか見つけられませんでした...)

Wilsons Disease Scoring System (leipzig Score) | Medical Calculator

↑ネット上で簡単にスコアをつけられるサイトまでありました。

Wilson病を疑った際に施行する血清セルロプラスミン測定、尿中銅測定、眼の細隙灯検査(+生検や遺伝検査のような確定診断のための検査の結果という並び)がスコアリングに絡んでいることがわかります。

 

「肝臓組織中の銅の定量測定、ロダニン陽性肝細胞の同定、染色体変異の検出」は発展途上国のすべてのセンターで行うことができるとは言えないので、それらを除外した、「Kayser-Fleischer角膜輪、高血清銅を伴うCoombs陰性溶血性貧血、急性肝炎がない場合の尿中銅、血清セルロプラスミン」の項目を採用した診断スコアの価値をテストした論文がありました。規模はそこまで大きくなく、小児のみが対象ですが、感度100%、特異度98.6%の結果が出ていたのでWilson病を疑った際にはこれらの検査だけを行うことも考慮されるかもしれません。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

Sajedianfard S, Ataollahi M, Dehghani SM. Diagnostic Value of a Modified Version of Wilson's Diagnostic Score in Pediatrics. Int J Organ Transplant Med. 2020;11(2):65-70. PMID: 32832041; PMCID: PMC7430058.

 簡便な生化学検査でWilson病は診断できるのか

少なくとも診断の参照となるような基準の項目にセルロプラスミン以外の血液検査でわかるような項目はありませんでしたが、ALP(IU/L)/総ビリルビン(mg/dL)の比率が4.0より低く、AST(IU/L)/ALT(IU/L)の比率が2.2以上だと感度・特異度がほぼ100%でWilson病を診断できるとは本当なのでしょうか。

 引用論文は以下のものになります。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 Korman JD, Volenberg I, et al. Pediatric and Adult Acute Liver Failure Study Groups. Screening for Wilson disease in acute liver failure: a comparison of currently available diagnostic tests. Hepatology. 2008 Oct;48(4):1167-74. doi: 10.1002/hep.22446. PMID: 18798336; PMCID: PMC4881751.

読んでみると、Wilson病による急性肝不全をきたした場合についての論文でした。(笑)

オキシダーゼ法と比濁法の2つの方法で血清セルロプラスミン<20 mg/dLをカットオフ値としたところ、オキシダーゼ法では感度21%、特異度84%、比濁法では感度56%、特異度63%とあまりいい陽性尤度比ではない一方で、ALP(IU/L)/総ビリルビン(mg/dL)の比率が4.0より低いと感度94%、特異度96%、AST(IU/L)/ALT(IU/L)の比率が2.2より大きいと感度94%、特異度86%とのことで、その2つを組み合わせると感度・特異度がほぼ100%で劇症Wilson病を診断できるとのことでした。

なるほど、高率に肝障害をきたすWilson病とはいえ、劇症じゃなければセルロプラスミンとかを測るしかないのでしょうか..?

 

調べると似たような論文は2019年にも出ていまして、
AST、ALT、ALP、AST/ALT比、尿酸、Hb、6項目それぞれにカットオフ値を設定し、満たすと各1点という基準で6項目合計が2.5点を超えると感度87.5%、特異度86.7%で劇症Wilson病と診断することができるという論文でした。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

Güngör Ş, Selimoğlu MA, Bağ HGG, Varol FI. Is it possible to diagnose fulminant Wilson's disease with simple laboratory tests? Liver Int. 2020 Jan;40(1):155-162. doi: 10.1111/liv.14263. Epub 2019 Oct 11. PMID: 31568639.

 

まとめると、急性肝不全をきたすような劇症型のWilson病の迅速な診断としてAST、ALT、ALP、AST/ALT比、尿酸、Hb、T-Bilといった項目は使える可能性があるということがわかりました。

論点がボケてしまうので書きませんでしたが、診断する上でのフローチャートや肝機能の評価(線維症のスコアや超音波エラストグラフィー)など、色々とWilson病の奥深さを思い知るいい機会でした。